賃金改善期間の考え方

初めて処遇改善加算を受ける際に気を付けなければならない「賃金改善期間」は、次の4通りから選択することができます。

  1. 4月~3月
  2. 5月~4月
  3. 6月~5月
  4. 7月~6月

それぞれ選択する際には、メリットとデメリットがありますので、そのあたりの違いを説明したいと思います。

どの賃金改善期間を選択しても変わらないもの

この4種類の賃金改善期間いずれにおいても変わらない項目が2点あります。

 

まずは報告期限です。例年報告期限は7月末日(必着)となっています。どの自治体もこの報告期限は変わりません。

 

次に「処遇改善加算額のお知らせ」の最終到着月は、5月下旬(20日過ぎ)となっています。

処遇改善加算(入金額)の計算期間はあくまで4月~3月で、通知書の到着日はその2か月後の6月~5月となっています。

 

この2点に加えて、自社の給与計算期間(締め日から給与計算が完了するまでの期間=賃金台帳の完成時期)と、報告期限までの作業時間のバランスを考慮する必要があります。

① 「4月~3月」を選択

例)20日締め、月末払いの事業所

※事業所の給与締め日や、支払日までの給与計算期間(作業期間)により、この矢印はズレますので、

 その点自社の運営方法に合わせてみて頂ければと思います。

計画書の記載例に書いてある賃金改善期間の原則がこの「4月~3月」です。

大体の事業所がこちらを選択していますが、落とし穴があります。

 

入金の通知が5月中旬となるため、3月の給与計算時点で、処遇改善の収支計算を合わせても、2か月分予想のしていない額が入ってきます。

基本的には、前年同期の入金実績及び支払実績を参考にして、先払いしておく必要があります。

 

この点、5月最終の入金の通知書を確認してから翌年度払いしても良いとの回答を得ている場合がありますが、基本的にはダメです。ただし、2か月先は誰にも予想はつきませんし、前年度と状況が変わって予測した金額に不足する場合があります。この場合、全額返納は厳しすぎるので、逃げ道がきちんと確保されています。こちらは、あとで説明します。

 

さて、報告書の作業時間ですが、5月下旬の通知書到着によって作成資料は揃いますので、早くて5月末には開始することができます。

 

なお、弊所で受注頂いた場合、依頼者の書類準備とpdf等データのメール受け渡しに1週間程度要していますので、この期間も考慮してご依頼頂ければと思います。

 

【メリット】

 報告書の作業時間が2か月余りありますので、余裕をもって取り掛かることができます。

 

【デメリット】

 2か月先の入金額を先回りして支払う必要がありますので、年度当初にしっかりとした計画が必要となります。

②「5月~4月」を選択

この賃金改善期間においては、①の「4月~3月」に比べて、1か月先の予測及び先払いだけで済みます。

 

報告書の作業時間については、①と変わらず2か月程度の作業時間が確保できます。

 

個人の私見ですが、①も②も大差はないので、こちらの賃金改善期間をわざわざ選択するのであれば、①でもいいような気がします。

 

【メリット】

 報告書の作業時間が2か月余りありますので、余裕をもって取り掛かることができます。

 

【デメリット】

 1か月先の入金額を先払いする必要がありますので、年度当初にしっかりとした計画が必要となります。

③ 「6月~5月」を選択

この賃金改善期間においては、給与締め日が10日や15日の場合には、②と同じく先払いの結果となります。

給与締め日が20日以降の場合は、通知書の到着を待って給与計算かできますので、処遇改善加算の収支を合わせることができます。また、5月末の一時金で処理することもできます。

 

ただし、一時金処理をする場合、ベア加算要件【賃金改善額の3分の2以上】(5月まで)や、月払い要件【加算Ⅳの2分の1以上】(6月以降)には、注意する必要があります。

 

なお、令和6年度においては、月払い要件は任意となっていますので、令和7年度からになりますが、いきなり翌年度からということにはなりませんから、おおむね今年度もその要件に当てはまるよう取り組む必要があります。

 

報告書作業期間においても、概ね2か月は確保することができます。基本的にメリットが多いこの期間については、計画書において賃金改善期間を「令和5年6月~令和6年5月」と記載していなければなりませんので、必ず確認をしてください。

 

計画書作成において①を選択しているのにもかかわらず、③の処理をしている事業所があれば、根本的に変える必要がありますので、いま一度ご確認願います。

 

【メリット】

5月最終の通知書到着を待って、処遇改善の支給ができるため、支給不足の防止につながります。また、報告書の作業時間も大体2か月は確保できます。

 

【デメリット】

給与締め日によっては、通知書到着まで給与計算の作業が完了しないことがあります。

特に処遇改善手当自体の年間の調整をしてから手当を確定し、それから支給することになるので、それ自体に時間がかかる場合、給与計算に間に合わないことがあります。

④ 「7月~6月」を選択

この賃金改善期間においては、5月の通知書を確認して、6月給与または夏期賞与に充てることができるので、③の処遇改善手当の計算も余裕をもってすることができます。

 

ただし、報告書の作業期間が1か月から1か月弱と短くなってしまうため、その分給与事務担当者の負担が増えます。

 

弊所では、書類の受領から報告書に関する質疑応答のやり取りなどに1か月以上は余裕を頂いて作業をしております。作業時間が短いため報告書の完成度が落ちる可能性があります。

日中忙しい業種ですので、やり取りはメールによるものが多くなります。そのため、質問をしてその返答が返ってくるのに1日・2日かかる場合があります。締め切りが迫ってくるとそのまま提出することになってしまいますので、基本的にこの期間を選択されている事業所については受付をしておりません。ただし、6月中に書類等を揃えて頂ける場合は引き受けさせていただきますので、よろしくお願い申し上げます。

 

【メリット】

通知書を確認して給与支給までに約1か月程度時間があるため、処遇改善加算の年間収支を合わせてから、6月支給の給与または夏期賞与への支給作業を余裕をもってすることができます。

 

【デメリット】

報告書の報告期限が迫っていることから、他の賃金改善期間と比べて作業時間は減少します。このために残業時間が増えるかもしれません。

 

なお、自治体によっては、「7月~6月」を選択できない場合がありますので、必ず確認をしてから選択するようにしてください。

 

弊所では、この賃金改善期間を選択している事業所につきましては、受付をお断りする場合があります。

賃金改善期間についての変更の届出

一度賃金改善期間を設定してしまった後には、特殊なことがない限り、基本的には変更できません。ただし、旭川市においては柔軟に対応している模様です。

 

例えば、「4月~3月」を指定していて、今年度より「6月~5月」に変更したいという場合、4月分と5月分の報告に空白ができてしまいます。この場合、その期間だけの報告書提出は必要ないが、監査実施の際に説明できる資料を残しておくこととされています。

 

各自治体によっても取り扱いは異なりますし、これは旭川市の例ですが、変更が必要になったら、まずは担当している自治体に確認してから手続きを進めましょう。

 

※私見ですが、令和6年6月制度改正もありますので、令和6年度は比較的認められやすいのかもしれません。

賃金改善期間の変更の届出をしないで、翌年度に支給する方法

いくら計算を緻密にしても、前年度と比較して従業員が減ったりすると、加算額が余ってしまう場合があります。そこで加算額よりも支給額が不足し、「報告書に×がついたので全額返納です。」ということになってしまうのは、とても厳しい処置だと思います。

 

この点「平成24年度障害福祉サービス等報酬改定に関するQ&A(平成24年8月31日)」では、このように記載されています。(他にも各自治体で発出しているQ&Aにも同様の記載があります。)

 

「問19 実績報告で賃金改善額が加算額を下回った場合、これまでの助成金同様、返還する必要があるのか。」

 

「加算の算定要件は、賃金改善額が加算による収入額を上回ることであり、加算による収入額を下回ることは想定されないが、仮に加算による収入額を下回っている場合は、一時金や賞与として支給されることが望ましい。なお、悪質な事例については、加算の算定要件を満たしていない不正請求として全額返還となる。」

 

以上のことから、翌年度に臨時で支払うことは認められています。あくまで不足した場合の措置ですので、最初から計画に組み込んで「6月~5月」のような処理をすることはできないとのことです。

 

では計算したところ不足が生じた場合、どのように処理したらいいのでしょうか。

 

例えば「翌年度の夏期賞与に不足分を支給」する場合は、二重計算をしないため、不足分の金額(前年度)と本来支払うべき金額(本年度)と分けて支給する必要があります。

賃金台帳に夏期賞与を前年度と今年度の二段構えで支給すると一目瞭然ですが、別にエクセルなどの計算表を作成して賃金台帳には一括の金額表示でも構いません。ただし、二重の金額の報告をしないよう注意しましょう。

 

また、賃金規程に以下のように記載しておくこともおすすめです。

「不足額が判明した場合には、直近の一時金または賞与で支給することがある。」

 

※令和6年6月には、特定加算やベア加算が処遇改善一本になることから、その規定がある部分については、賃金規程を改定して届け出る必要があります。

 

最後に処遇改善加算の主役は、介護職員などの現場で働く人です。政府でもベースアップ加算率を示しており、受け取った金額よりも多く支払うことが大前提となっています。Q&Aでも「支給額よりも加算額が少なくなることは想定していない」と食い気味で書かれていましたね。

また、事業者への救済として「処遇改善加算額の法定福利費事業負担の増加分」を支給額に含めることができるようになっていますので、事業所の規模によっては少なくない金額となります。

 

どこの業界も求人不足となっており、提示される月給などの待遇をみて応募してくることと思います。そのため、求人誌などの広告宣伝費の分を処遇改善に充てることで求人問題が解消されるかもしれません。求人広告が全く要らないわけではありませんが、出す回数は少なくなるかもしれません。

 

経費節減のため処遇改善手当もなるべく無駄のないようにすることも大事ですが、そうなると毎度報告金額が足りないという事務増加にもつながりますので、この機会に見直してみてはどうでしょうか。

ベースアップ等支援加算の要件

〇 「ベースアップに係る賃金改善額の3分の2以上を月額払いとする。」

(実績報告書別紙様式3-1の2実績報告,<共通>すぐ下のⅣ【ベースアップ等加算】に明記されています。)

(また、別紙様式3-3(n-1)(n-2)にも「加算額の金額」ではなく「賃金改善額」の文字が記載されています。)

 

× 「ベースアップ等支援加算額(給付額)の3分の2以上を月額払いとする。」

 

例えば×の要件を参考にした場合で給付額が900円のときには、600円以上を月額払いで支給していれば〇となります。従来の支援補助金等はこの説明が多かったため、その流れで支給する事業所も少なくないと思います。

 

ところが〇の要件である「賃金改善額の3分の2」というのは、月額払いと一時払い含めて実際に1,200円支給したときに900円以上月額払いでなければならないという要件になります。

報告書の様式もそのようになっており、令和4年度の報告書作成の際には、×がついてしまうという状況になってしまうこともありました。

なお、その事業所では「法定福利費事業負担の増加分」を計上していなかったため、弊所で計算し直して作成したところ、〇がついて一件落着となりました。

 

上記の例で給付額ギリギリに支給していた場合、上記の結果300円不足してしまうので、報告書には「×」と表示されてしまいますので、いま一度ご確認いただければと思います。

 

ちなみに令和7年度からの月額配分要件は、「加算通知額の2分の1以上」です。

その他留意すべき要件

加算以外の部分で賃金水準を引き下げないことの誓約

令和5年度の計画書よりこの誓約事項が加わっております。そして、今年の7月の報告書には、以下の計算の要件を満たすことが必要となっています。

 

①前年度の賃金総額-(処遇改善加算通知額合計+その他の独自加算額)

②本年度の賃金総額-処遇改善加算通知額合計

 ※独自加算額には、処遇改善加算額を超えて支払った金額を含みます。

   つまり、①の( )内は、基本的に処遇改善手当等の実際支給額合計のことを言ってます。

 ⇒ ①<②であることが要件

 

前年度と比べて職員減少のため②が少なくなるときは、これ以外の項目自体も×がつく可能性があります。この場合は、合理的な計算方法によって前年度の賃金総額を減少することで解消することができます。

 

また、サービス利用者の減少等により、賃金を下げなければならない状況に至った場合には、「特別な事情に係る届出書」を提出することで解消することができます。