遺言

遺言とは?

 遺言とは、遺言者(遺言を残す人)が、自分の死後の財産や身分などの法律関係を一定の方式にしたがって定める最終的な意思表示のことをいいます。

 遺言書は、法律で定められた方式によらなければ、無効となってしまいます。 たとえば、日付において、平成31年3月吉日といったあいまいな表現で記載することはできません。

 

 遺言は生きている間であれば、いつでも本人の意思で自由に変更や撤回をすることができます。 また、遺言で定めることができる内容も法律で決まっていますので、それ以外の事柄について定めても効力はありません。 

 

 ちなみに、遺言書に書くことはできないけど、どうしても記録に残して伝えたいときは、エンディングノートを作成することをおすすめします。 遺言書とエンディングノートの併用で鬼に金棒ですね。

遺言書の必要性

 遺言は、「人の最終意思に、死後の法的効果を認めて、その実現を保証する制度」です。

 家庭裁判所に持ち込まれる相続争いの多くは、正式な遺言書がないためだといわれています。 

 遺言書を作成することは、故人の残してきた大事な財産を巡って、遺産争いを繰りひろげることを防止する最善の方法であり、遺産を残された家族のために生かす出発点でもあります。

 また、残すのが借金だけという場合であっても、残された家族が法的な手続きにより借金の返済義務を負わなくて済むよう、その内容を遺言というカタチで書き残しておきましょう。

遺言でできること

 遺言でできる事柄は法律で決められている一定の事項に限られます。

 

⑴相続に関する事項

 

①推定相続人の廃除・取消し   

 「自分の息子には素行が悪く虐待を受けていたので、財産をあげたくない」といった場合相続人から除外するものです。

②相続分の指定・指定の委託

 「Aには相続財産の70%、Bには30%を相続させる。」というように相続分の割合を指定できます。 また、公正な判断ができる第三者に委託することもできます。

③特別受益の持戻しの免除

 たとえば、生前Aの大学受験のためにあげた300万円を相続の計算において考慮しなくてもよいとするものです。

④遺産分割の方法指定・指定の委託

 たとえば、居住用住宅はAに相続させて、預貯金はBに相続させるとか、不産もすべて現金化して相続させるなどの遺産分割の方法を指定できます。

 また、公正な判断ができる第三者に委託することもできます。

⑤遺産分割の禁止

 相続開始時から5年内において遺産分割を禁止することができます。 たとえば子供が高校生で未成年のため成人になってから遺産分割をしてほしいというケースです。 

⑥共同相続人の担保責任の減免・加重

 相続財産に欠陥があって損害を受けた場合は、相続人同士でその相続分に応じて保障しなければなりませんが、その責任を軽減・加重したりすることができます。

⑦遺贈の減殺の順序・割合の指定

 相続財産を譲り受けた者(受贈者)が、遺族から遺留分を請求された場合、どこの財産から減らして渡すのか、その順序や割合を指定できます。

 

⑵遺産の処分に関する事項

 

⑧遺贈

 たとえば、お世話になったヘルパーさんにいくぶんか財産をあげたいという場合です。

⑨財団法人設立のための寄付行為

⑩信託の設定

 

⑶身分上の事項

 

⑪認知

 俗にいう隠し子を実の子として認めることにより、相続する権利が発生します。

⑫未成年者の後見人の指定

 たとえばシングルマザーで自分に幼い子供がいた場合、母親が不遇にもお亡くなりになってしまったとき、親代わりになる人を指定することができます。

⑬後見監督人の指定

 

⑷遺言執行に関する事項

 

⑭遺言執行者の指定・指定の委託

 遺言執行者は、財産目録を作成して、遺言書にしたがって各財産を分配するサポートをする人のことをいいます。 遺言の内容が複雑なときは、遺言執行者を指定することが望ましいといえます。 なお、遺言執行者には、行政書士もなることができます。

 

⑸学説で認められている事項

 

⑮祖先の祭祀主宰者の指定

 いわゆるお墓の面倒を見てくれる人を指定できます。

⑯生命保険金受取人の指定・変更

 できれば、生きている間に済ませた方がラクです。

遺言の方式

 遺言の方式は、大きく自筆証書遺言公正証書遺言・秘密証書遺言の3つがあります。

 ここでは、主に取り扱う自筆証書遺言と公正証書遺言について説明します。

自筆証書遺言  遺言者が、遺言内容の本文・日付・氏名を自分で書いたうえで押印します。これらが欠けたものは無効となります。2019年1月より財産目録については、パソコンで印字する方法、遺言者以外の人による代筆、またコピーによる添付が可能となりました。 問題点としては、法律的に間違いのない文章を作成することはなかなか困難なことですし、保管上の問題もあります。 遺言執行の際には家庭裁判所で「検認手続」をしなければなりません。 よく筆跡鑑定などで真実性が争われているのが、この遺言書です。
公正証書遺言   証人2人以上の立会いの下、遺言の内容を公証人に伝え、筆記してもらった上で読み聞かせてもらいます。その筆記に間違いがないことを確認した上で署名・押印します。 この方式の遺言書が一番、安全で確実なものでおすすめですが、作成に時間を要することと証人2人用意しなければならないこと、また公証人費用がかかることが問題点となります。

遺言書を作成する2つの目的

 遺言書の作成する目的は、大きく2つあります。

 

 1つは、将来のトラブル回避のケースです。大体の方はこちらをイメージすると思います。

遺言者がお亡くなりになった後に、きちんと遺産の行き先を決めておけば、相続トラブルの防止につながります。

 遺言書を残さないまま、お亡くなりになったときは、法定相続分の分け方になってしまいます。

まだ、親、子、兄弟辺りまではトラブルが起きることは少ないのですが、代襲相続が起きて甥や姪にまで行くと親族関係が希薄になってしまうため、相続争いになることも考えられます。

 

 これだけを考えると「うちには遺言書など必要ない!」という結果に結びつくのですが…

 

 最近、弊事務所には、不動産の生前贈与を考えていてとか、相続後に名義書換をしたいなどのご相談を頂くことがあります。

むしろ、このために遺言書や遺産分割協議書の作成依頼に繋がることが増えてきています。

 

 もう1つの目的は手続きのための提出書類として作成しなければならないケースです。

 株式や不動産などの財産について名義書き換えを行う場合に、遺言書の提出を求められる場合があります。 今まで住んでいた土地や家屋は母親の単独名義にしておきたいと思っていても、このままだと法定相続分での分け方となってしまうため、他の相続人との共有扱いとなります。

 

 当然ながら亡くなってから遺言書は作成できませんので、この場合の対応策は、他の相続人が相続放棄をするか、改めて遺産分割協議書を作成することになります。

 相続放棄については、相続をしない他の相続人がそれぞれ裁判所への申述書の提出となります。しかも、事前の相続放棄はできませんし、相続の開始を知ってから3か月以内という期限も決められています。

 遺産分割協議書についても、相続人全員が揃って協議を行い、記名押印をする必要があります。それぞれの相続人の総意が同じであれば、郵送で集める方法もありますが、これも相続人が複雑になればなるほど、人も集まらなければ、書類も揃わないという時間のかかる作業となってしまいます。

 

※基本的に、行政書士は登記手続きのみのために遺産分割協議作成を受任することはできませんし、司法書士は登記手続きに関わらない遺産分割協議書の作成や遺言書の作成はできないという解釈になっているようです。

 

 このことから、遺言書の作成は、後々の相続人トラブル回避とともに、後から発生する事務煩雑化を防止するという意味合いも含まれるのです。

遺言書を作成すべきケース

 以下のようなケースでは、遺言書を作成することを強くおすすめします。

 

①法定相続分と異なる配分をしたい場合

 相続人それぞれの生活状況などに考慮した財産配分を指定できます。

②遺産の種類・数量が多い場合

 遺産分割協議では、財産配分の割合では合意しても、誰が何を取得するかについては(土地・株式・預貯金・現金などいろいろな種類の財産があります)なかなかまとまらないものです。 遺言書で指定しておけば紛争の防止になります。

③配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合

 配偶者と義理の兄弟姉妹との協議は、なかなか円満に進まないものです。 遺言書を作成することにより、苦労をともにした配偶者だけにすべて財産を相続させることができます。

④農家や個人事業主の場合

 相続によって事業用資産が分散してしまっては、経営が立ち行かなくなります。 このような場合も遺言書の作成が有効です。

⑤相続人以外に財産を与えたい場合

 内縁の配偶者、子の配偶者(息子の嫁など)生前特にお世話になった人や団体への寄付

  ※方法がない訳ではありませんが、遺言書がなければほぼ不可能と考えてください。

⑥土地や建物などのマイホーム(不動産)を所持している場合

 亡くなったら妻の名義にしたいなどの単独名義に書換えを行う際の添付書類として、遺言書か遺産分割協議書が必要となります。

⑦その他遺言書を作成すべき場合

  • 先妻と後妻のそれぞれに子供がいる
  • 配偶者以外のものとの間に子供がいる
  • 相続人の中に行方不明者や浪費者がいる
  • 相続人同士の仲が悪い
  • おひとりさまで他に面倒を見てくれる人がいない

遺言書のセミナー

2022年9月から2か月間郵便局主催・旭川市後援の形で旭川市内の老人クラブに対して、遺言書のセミナーを実施いたしました。(翌年度以降の開催も打診されています。)

 

他に申し込みがあったようですが、締め切りに間に合わず実施できなかったことを伺っております。旭川市および旭川市近郊の老人クラブその他団体であれば、遺言書のセミナーを随時受け付けております。

 

なお、セミナー代金はかかりませんが、セミナーにかかる資料代や場合によっては交通費は主催団体負担となります。