すべての工事請負において建設業の許可が必要な訳ではありません。以下の工事を行う場合に建設業許可が必要となります。
建築一式工事の場合 | 1,500万円以上の工事、または延べ面積が150㎡以上の木造住宅工事 |
建築一式工事以外の建設工事 | 500万円以上の工事 |
【建築一式工事】
原則として元請業者の立場として総合的な企画・指導及び調整の下に土木工作物または建築物を建設する工事であり、2つ以上の専門工事が有機的に組み合わされた(複数の下請業者による施工)工事である場合、または工事の規模、複雑性等からみて個別の専門工事として施工することが困難な工事のことです。
5つの許可要件と欠格要件
建設業の許可を受けるためには、5つの許可要件をクリアし、欠格要件に該当しないことが必要となります。(令和2年10月1日に改正となりました。)
許可要件その1 常勤役員(経営業務管理責任者)の設置
主たる営業における常勤役員のうち1名(個人の場合はその者またはその支配人のうち1人)が経営業務の管理責任者としての経験を有するものであること。
次の項目のいずれかに該当していることが必要となります。
令和2年10月1日に以下のとおり改正となりました。
【必要とされる書類の一例】
※添付書類や確認書類には、ローカルルールが存在しますので、他地方の場合は管轄の部署にお問い合わせください。
①常勤を確認する書類(いずれか1点)
健康保険被保険者証(事業所名が記載されているもの(両面))
直前の住民税特別徴収税額通知書
確定申告書(控)(個人の場合)
②役員等の地位及び経験年数を確認する書類(いずれか1点)
登記事項証明書(法人役員の場合)
確定申告書(控)など(個人の場合)
③建設業の経験に係る建設工事を確認する書類(いずれか1点)
請負契約書(各年1件)
注文書及び注文請書(各年1件)
請求書及びその部分が記帳されている通帳の写し(各年1件)
許可申請書または許可通知書(過去2回分)(変更の場合)
許可要件その2 専任技術者の設置
営業所ごとに許可を受けようとする建設業に関する一定の資格、または経験を有する技術者を専任で配置することが必要とされています。
【一般建設業】
次のいずれかの要件を満たしていること
1.許可を受けようとする建設工事に関し、学校教育法による指定学科を卒業後、一定年数の実務経験を有する者
- 中等教育学校卒業後 5年以上
- 高等学校卒業後 5年以上
- 大学・短大・高専卒業後 3年以上
2.許可を受けようとする建設工事に関し、10年の実務経験を有する者
【必要とされる書類の一例】
①許可を受けようとする建設工事の資格(認定)証明書または免許等
②実務経験が必要な場合には、その年数分の建設工事を確認する書類
⇒ 経営業務の管理責任者の③と同じ書類
許可要件その3 請負契約における誠実性
許可申請者について請負契約の締結やその履行に関して、不正または不誠実な行為をするおそれが明らかな者でないことが必要となります。
たとえば、詐欺・強迫などの法律に反することや、工事内容における度重なる契約違反などをいいます。
許可要件その4 財産的基礎または金銭的信用
建設業を営むためには、多額の金銭が必要となります。そのため、受注している途中に倒産しないように、自己資金を保有する財産的基礎、または一定以上の資金を調達できる金銭的信用が求められます。
【一般建設業】
以下のいずれかに該当する必要があります。
1.自己資本の額が500万円以上あること
2.500万円以上の資金を調達する能力があること
3.許可申請直前の過去5年間許可を受けて継続して営業した実績を有すること
(↑すでに建設業許可を受けている業者の場合)
【特定建設業】
以下のすべてに該当する必要があります。
1.欠損の額が資本金の額の20%を超えていないこと
2.流動比率が75%以上であること
3.資本金の額が2,000万円以上であり、かつ、自己資本の額が4,000万円以上であること
※流動比率…流動負債の合計額のうち流動資産の占める割合
【必要とされる書類】
①財務諸表
②資金調達能力の証明書(以下のいずれか)
・融資証明書または預金残高証明書(発行日より30日以内)
※1ヶ月ではなく30日であることに注意してください。
・不動産の固定資産評価証明書
また、法人の場合には、登記事項証明書の資本金の額に注意しましょう。開業と同時の会社設立の際に許可を受けられない可能性があり、その場合定款変更が必要となります。
その5 適正な社会保険への加入
健康保険・厚生年金・雇用保険の強制適用事業所については、該当するすべての営業所について、その旨の届出をしていることが令和2年10月1日より追加となりました。
【必要とされる書類の一例】
①健康保険の加入状況を確認する書類(いずれか1点)
領収証書の写し
納入証明書の写し
資格取得確認及び標準報酬決定通知書
②雇用保険の加入状況を確認する書類(いずれか1点)
労働保険概算・増加概算・確定保険料申告書(控)の写し及び領収済通知書の写し
雇用保険被保険者資格取得等通知書(事業主通知用)
これらがないときは、請求書にあたる通知書と支払ったときの領収証書のセットが必要となります。
欠格要件
以下の欠格要件に該当する場合は、建設業許可を受けることができません。また、許可後に発覚した場合には、許可取り消し処分となってしまいます。
【欠格要件の例(一部抜粋)】
- 許可申請書類の重要な事項について、虚偽の記載または重要な事実の記載を欠いたとき
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 不正の手段により許可を受けて許可行政庁からその許可を取り消され、または営業の停止の処分に違反して許可を取り消され、その取消の日から5年を経過しない者
- 許可の取り消しを免れるために廃業の届出をしてから5年を経過しない者 など
【必要とされる書類】
①誓約書
②身分証明書(市役所・役場発行のもので免許証等の本人確認書類ではありません。)
③登記されていないことの証明書(法務局発行のもの)
その他、注意する点について
建設業許可申請のために、法人の場合は会社の登記事項証明書を添付しますが、その際に「事業目的」や「資本金の額」に注意しましょう。
- 「事業目的」に許可を受ける工事内容が具体的に記載されているか
例)「○○工事の請負、施工」
- 「資本金の額」が財産的基礎の金額以上であるか
例)特定建設業ならば2,000万円以上の資本金の額が必要となります。
許可取得後の手続について
【変更の届出について】
許可の有効期間は5年間です。その期間内に届出事項の変更があった場合には、変更届が必要となります。許可要件に関わる変更事項については、2週間以内に届出しなければなりません。
【更新申請について】
引き続き建設業を営もうとする場合、有効期間満了の30日前までに手続きを取る必要があります。受付開始日は満了日の3ヶ月前から行っています。
なお、更新を失念したりして行わなかった場合は失効することとなり、新規の許可申請となってしまいますので注意が必要です。
【廃業する場合】
会社の消滅や個人事業主の死亡など建設業を廃業したときは、30日以内に廃業の届出をしなければなりません。
なお、休業の取扱いはありません。1年以上建設業を営業しない場合には、許可の取り消しとなります。
建設業事業年度終了届
建設業許可を受けた場合、毎年決算期が来たら事業年度終了届を事業年度終了後4か月以内に提出しなければなりません。個人事業主は12月末が決算日と固定されていますので、4月末までに提出するようにしましょう。
一応、罰則は存在しますので、自治体から注意喚起が通知されることがあります。それでも提出がない場合には、罰金などの対象となり得る可能性があります。
なお、万が一失念しても期限終了後も受け付けてくれますのでご安心ください。
ただし、提出がないまま営業を続けていると、変更届・業種追加・経営事項審査を受け付けてくれないため、最悪更新を逃すことになりますので、ご注意ください。
なお、この書類は通称「決算届」ということもありますが、取り扱うことができるのは行政書士のみです。
決算というと税理士を思う方もいますが、税理士が作成するものは税務署への提出書類で、この事業年度終了届は北海道(上川総合振興局)へ提出するものです。
税理士が取り扱う場合は、税理士が行政書士登録をしているとき、または提携の行政書士がいるときのみですので、ご注意ください。
財務諸表の勘定科目
建設業経理士の資格をお持ちの方はご存知だと思いますが、建設業には特有の勘定科目が存在します。
実際には税理士が作成した財務諸表をもとにして、建設業許可用の財務諸表に書き換える必要があります。
【貸借対照表に関する勘定科目】
①完成工事未収入金
完成した工事について、まだ代金が回収できていないもの
⇒ 「売掛金」に相当
②未成工事支出金
完成工事基準では、工事が終わるまでは、それまでかかった経費については、費用に計上することができません。そのため、一旦資産として計上し、完成した後に費用に振り替えます。
⇒ 「仕掛品」に相当
③工事未払金
工事原価に関係する代金をまだ支払っていないもの。
⇒ 「買掛金」に相当
④未成工事受入金
注文主から請負金の一部(手付金など)を受け取ったもの。
⇒ 「前受金」に相当
⑤完成工事補償引当金
完成した建築物に欠陥等があった場合の修理やアフターサービスに対する引当金。
⇒ 「製品保証引当金」に相当
⑥工事損失引当金
工事の見積もりに対して、かかった費用が過大な場合、その金額が合理的に見積もることができるときには、その工事損失のうち、工事契約に関してすでに計上された損益の額を控除した残額について計上される引当金。
【損益計算書に関する勘定科目】
①完成工事高
建築物が完成し、注文主に引き渡した工事高の総額。
⇒ 「売上高」に相当
②完成工事原価
完成工事高に対応する工事にかかった経費総額。
⇒ 「売上原価」に相当
人件費の区分
人件費の区分については、「役員報酬」「従業員給料手当」「賞与」「雑給」などがありますが、その名称の区分ではなく、建設業の財務諸表では、人件費を記入する場所がおおきく3ヵ所あります。
①「損益計算書」の「完成工事原価」の内訳である「完成工事原価報告書」の労務費
②同じく「完成工事原価報告書」の経費の「従業員給料手当」
③「損益計算書」の「販売費及び一般管理費」内の「従業員給料手当」
【①の労務費】
現場に直接雇われる賃金等(日雇いなど)が計上されます。また、作業員を外注する場合もここに含まれますが、その場合「労務外注費」として内書きの必要があります。
【②の従業員給料手当】
工事に従事する正社員及び準社員に対する給料などが、ここに区分されます。
【③の従業員給料手当】
会社の総務や経理など管理部門の業務に従事している社員等の給料が、ここに区分されます。
その他、事業年度終了届には、「工事経歴書」や「直前3年の各事業年度における工事施工金額」など建設業許可で使用した書類を当年度に更新して提出する必要があります。
また、工事経歴書の合計が損益計算書の工事完成高に符合しなければならないなど、要所要所で複数の帳簿の数字が一致していなければなりません。