令和6年度から算定要件に入っている「ベースアップ率の上昇」。
処遇改善加算でのベースアップ率とは、原則、1年間の総体の賃金上昇率を指すものではありません。基本的に「ベースアップ」は、「基本給」+「毎月決まって支払われる手当」の総計となります。
最近では、ウクライナの戦争による燃料の価格上昇や、それに伴ってさまざまな物価が上昇しています。せっかく賃金が上がっても本当に上がったように感じることができないのが実情です。
処遇改善加算においては、この状況を打破する政策の一つになっています。ですから、総体の賃金はもちろん上がるけれども、毎月支払われる賃金(月給)と、一時的に支払われる賃金(賞与)の配分を変えることが望ましいとされています。
ボーナスが上がることはもちろんうれしいですが、やはり月額の給料が上がらないとモチベーションは上がりません。短期アルバイトでボーナスがもらえない労働者にとっては、全然意味がない話です。そこで、月給での賃金を上げる意味合いで「ベースアップ率の加算」という項目が増ええました。
ベースアップの定義
健康保険料や厚生年金保険料の算定基礎に使われる賃金は、「基本給」+「毎月決まって支払われる手当」となっています。
前段でお話しをした政府の見解に鑑みると、処遇改善加算でも、この計算方法を採用しているものと考えられます。
このことから、夏期・冬期・年度末のボーナスや、寒冷地特有の燃料手当(一時金)は、この金額に含めることができません。
なお、以下でお話する内容は、処遇改善加算に関しての内容のため、社会保険料の算定基礎の計算方法と混同しないようにお願いいたします。
毎月決まって支払われる手当
次に毎月決まって支払われる手当ですが、ここにはいわゆる「残業手当」などの毎月支払われる性質のものであっても、金額が変動するものは該当になりません。
そもそも、処遇改善加算の計算においては、前年度と本年度の賃金を比較するに際して、時間外・夜間・休日割増賃金等を計上していません。
毎月(毎年)変動差のある手当関係を賃金総額に含めてしまうと問題が生じることがあり、集計をやり直す必要が出てきます。例えば、前年度残業手当を大目に支給したが、本年度業務改善等により残業手当の削減に成功したといった場合、集計上はベースダウンと判定されてしまいます。
以上のことから、以下の通り処遇改善加算に係る手当関係を分類してみましたので参考にしてください。
【算定に含める手当】
役付手当(管理職手当・役職手当・主任手当など)、資格手当、住居手当、扶養手当、通勤手当(定額制で支払っているもの)、処遇改善手当など
【算定に含めない手当】
時間外労働・夜間労働・休日出勤等の手当(割増賃金)、夜勤回数によって金額が変動する夜勤特別手当、通勤手当(出勤日数によって変動するもの)など
調整給については、賃金規程等の改訂により、一時的に支払われる性質のものであって、その原因が解消されれば、いつかは消えてなくなる手当です。その該当者が前年度も本年度もいるのであれば含めても構いませんが、その該当者がいつ退職するかわからないですし、どちらにしてもベースアップ率には影響がないので、弊所では除外して計算しています。
弊所での集計方法
以上のルールに従っても、年度途中で居住地が変わったり、扶養家族に変動が生じると計算をやり直す必要性が出てきます。
降格についても同様のことが生じますが、この場合、役職手当とともに基本給も下がってしまいます。この場合は、普通にベースダウンとなりますので、原則は「特別な理由」として別途報告することとなります。なお、顧客減の理由等により処遇改善加算自体の金額が減少したためにベースダウンが生じてしまう場合も同様です。
処遇改善加算の判定基準は、あくまで賃金総額に対しての結果となりますので、一部ベースダウンがあったとしても、従業員の増員等で賃金総額が下回らないときは無視しても構いません。
ベースアップ率の計算の話に戻りますが、結局の話、役職手当や住居手当、などの算定に含める手当も年度途中で減額になる可能性があります。それであればということで、基本的な内容はは理解した上で、弊所ではシンプルに以下の計算方法にまとめました。
「基本給」+「処遇改善加算に係る増額分」
結局は、「処遇改善加算の金額を使って、ベースアップを図りたいという意向を汲んでいればいいんでしょ?」ということでこの形に収まりました。意図的に総体の処遇改善加算額を下げなければ問題が生じることはありませんし、計算方法も簡単になりますので、参考にしてみてください。
もちろん、原則通りの計算方法をされている事業所におかれましては、そちらの方がむしろ正確な計算方法で間違いではありませんので、従来通りの方法で継続してください。